石原長雲 23桁柘植玉
雲州そろばん製造/石原長蔵さん(奥出雲町)
「わたしの名前で注文がくる。うれしいが、プレッシャーを感じる。年をとればとるほど、そろばんは奥が深いことがよく分かる」-。雲州そろばん製造の伝統工芸士・石原長蔵さん(79)=島根県奥出雲町横田=は穏やかに話す。雅号は「長雲」。名工として知られ、全国各地の珠算関係者たちから高い評価を受けている。
石原さんは、生まれも育ちも横田。県立横田農林学校(現・横田高校)を卒業後、1951年に父親の友人のそろばん職人に弟子入りした。「学校を出て、まったく違う仕事をしていたが、父が亡くなり、家を守らないといけなくなった。23歳で、職人としては遅い弟子入りだった」と振り返る。師匠のもとで1年間修業し、お礼の奉公を3カ月間した後、自宅でそろばん製造を始めた。
石原長蔵さんが製作した多彩な雲州そろばん
横田のそろばん業界も時代とともに変わり、量産、機械化などのために工場ができ、そろばん1丁を作るために187もあるという作業工程の分業も進んだ。「徒弟制度はなくなった。わたしが最後ぐらいだと思う」と石原さんは話す。以来、そろばん製造一筋に半世紀余りになる。
JR出雲横田駅近くにある雲州そろばん伝統産業会館と隣に併設されているそろばん回廊。石原さんは、96年から回廊内に仕事場を移し、その技を観光客たちに披露している。
修業時代から使っている年季の入ったかんな、きりなどの工具や素材の銘木などがきちんと整理されて並ぶ工房内。石原さんは、ここで実演しながら、時間が許す限り丁寧に材料や工程について分かりやすく説明してくれる。明るく話し好きな人柄、技術の高さから、観光客やそろばん関係に限らず木工について学びたいと訪ねて来る人、ファンも少なくない。石原さんは「できるだけ笑うようにしている。笑うのが健康法。いろんな人と話をするのは楽しい」とほほ笑む。
雲州そろばん 伝統工芸士 石原長蔵氏(長雲)
昭和5年6月生まれ
島根県立横田農林学校を卒業後、安部惣市を師として算盤製造技術の習得に努めた。
昭和27年より、自宅にて算盤製造を営む。
島根県伝統工芸士会 理事
平成8年4月より、雲州そろばん伝統産業会館の隣にそろばん回廊が併設し、
そろばん回廊にて工芸士の腕を観光客に披露している。